クラシックロックドリルの世界
第14回 312D/112D小型さく岩機
312D(小型レッグドリル 1956年:昭和31年)、112D(小型ハンドハンマー 1957年:昭和32年)
さく岩機でせん孔に必要なエネルギーは理論上は孔径の自乗に比例して大きくなります。入力エネルギーが同じならば小孔径の方がせん孔速度が早くなる上に反動も小さくなりますので作業者の疲労も小さくなります。また孔径が小さいと火薬使用量が減り経費が削減できます。
ところが初期のさく岩機は効率が低く、強度の低い炭素鋼ロッド(タガネ)は細いと折損が発生しやすいため、大型さく岩機(ドリフタ)で太いロッドのせん孔が主流であり、重量30ポンド(15Kg)以下の小型さく岩機(古河ASD11,ASD18など)の主な用途は小断面トンネル(細脈堀)や二次破砕用など限られたものでした。
また小型さく岩機は軽量化のため無理な設計が行われていたため、故障が多く性能・耐久性に不満がある機種となっていました。
旧式小型さく岩機の軽量化の一例(ピストンライフル回転機構による軽量化)
軽量化のためASD18ピストンはライフルバーとの兼用とされライフル溝が加工されています。直線溝とライフル溝はそれぞれ2本しか無く、またライフル溝は捻じれ角が大きいため回転力が弱い上に溝摩耗が多くなる欠点があります。
一方112Dピストンは大型機種と同じ独立したライフルバーを持つためライフル溝が無く、直線溝の数も多く溝摩耗に強い構造です。
ロッド(ビット)の口径はゲージ径と呼称され、小孔径せん孔はショートゲージせん孔と呼ばれました。1950年代以降、技術革新によりロッド(タガネ)の材質が高炭素鋼よりも強靭な合金鋼となり、さらに刃先に摩耗に強いタングステン合金(超硬)が使用されるようになると、経費削減を目的としてショートゲージせん孔が注目されるようになりました。
しかしショートゲージせん孔に大型のさく岩機を使用するとパワー過剰のため小径ロッドが折損してしまうため、パワーを抑えた小型さく岩機が要望されました。そこで古河ではそれまでの小型さく岩機の欠点を改善したショートゲージせん孔専用小型さく岩機として112D、312Dを新規開発しました。
新しく開発された112D,312Dは軽量化のため様々な工夫がされていました。
①シリンダの一部をバルブ機構の一部として利用
バルブチェストをシリンダに組み入れるのでは無く、シリンダの一部を直接バルブチェストとして軽量化しています。
②ブロー方式をバルブブローからサイドブローに変更。
独立したブローバルブを廃止し、スロットルバルブ操作でブロー操作を行えるようにしました。これはブローが強力になるメリットもありました。
③バックヘッドのアルミ合金化
④各部品の薄肉化(例:シリンダの肉厚約5ミリ)。弊害として2本のスルーボルトを均等に締め上げないとシリンダに歪みが発生しました。
112D・312Dの「整備したら稼働しなくなった。」「隙間から空気が漏れるようになった。」というクレームの原因の多くはスルーボルトの片締めが疑われます。
形式 |
112Dハンドハンマー |
重量 |
12.6kg |
シリンダ内径 |
54㎜ |
ピストン
ストローク |
45㎜ |
バルブ形式 |
全自動バルブ
AUTOMATIC VALVE |
バルブ形状 |
チューブ+フランジ型 |
打撃数 |
2450回/分 |
さく孔性能 |
φ30超硬ビット
400㎜/分(花崗岩) |
形式 |
312Dレッグドリル |
重量 |
13.3kg |
シリンダ内径 |
54㎜ |
ピストン
ストローク |
45㎜ |
バルブ形式 |
全自動バルブ
AUTOMATIC VALVE |
バルブ形状 |
チューブ+フランジ型 |
打撃数 |
2450回/分 |
販売価格 |
"42,000円 昭和33(1958)年
(参考:当時の大卒初任給約13,000円)" |
レッグ形式 |
LA46 |
重量 |
10.9kg |
全長(最短) |
1300mm |
全長(最長) |
2080mm |
フィードシリンダ内径 |
φ46mm |
販売価格 |
"20,000円 昭和33(1958)年
(参考:当時の大卒初任給約13,000円)" |
312Dはレッグと合わせても重量約25Kgと非常に軽量でした。
112D・312Dは小型な上にせん孔性能が極めて高いことから、小型さく岩機の一般用途である細脈堀りや二次破砕に留まらず、金属鉱山の軟岩せん孔、炭鉱の発破採炭や沿層掘進、足場の危険な石灰山の傾斜面採掘法などに使用されました。
性能優秀な112D・312Dは国内外のメーカによりコピーされ、イミテーションが販売されました。現在も一部のメーカでは主力商品として販売されていることからもその優秀性が分かります。
112Dの作動状態