クラシックロックドリルの世界
第23回 6D パームドリル(ルートドリル)
天然石材は、古くから石積、壁面、床、土台、記念碑など広く土木、建築、装飾に使用されてきました。
採石場で採掘された原石は、順次、必要な大きさに割られます。この作業は『矢割り』と呼ばれます。
伝統的な方法では、まずノミを使用して、割る面に沿って手掘りで逆三角形状の矢穴を約10㎝間隔で掘ります。
次に、矢穴の角度より先端角度が大きく、長さ10㎝ほどの矢を玄翁で平均的に叩き込んで岩石を割ります(矢締め)。
矢の角度より矢穴の角度が大きいと、矢の側面より先に、矢の先端が矢穴の底に当たってしまい、くさびの効果が発揮できません。
石を割る線に沿って、矢の側面と矢穴の側面が密着するように、矢穴の側面に凸凹が生じないよう、均一な間隔で矢穴を手で掘ることは、熟練が必要な重労働でした。
御影石を切り出すため矢穴を掘り、矢をげんのう(玄翁)で叩きこむ江戸時代の職人たち1)
矢の寸法(8分矢)
矢穴の寸法(8分矢)
昭和になりポータブルコンプレッサーが普及し始めた1960年頃から、矢穴掘りにチッピングハンマーが使用されるようになりました。チッピングハンマーを使用することで、手堀りの半分以下の時間で矢穴を掘れるようになりました。
さらに1970年頃には、海外からセリ矢を使用する石割方法が移入されます。
セリ矢とは、ウェッジ(クサビ)とフェザー(側板)が一つになった工具で、これをさく岩機であけた孔に挿入して、叩いて石を割ります。
セリ矢の形状
6Dは、孔径φ14mmからφ38mmまでの小孔径用さく岩機となります。
古河さく岩機の中では最小・最軽量な機種となり、古河ではパームドリルの商品名で販売されましたが、一般ではルートハンマー(ROOT HAMMER)とも呼ばれました。
カタログ
部品表
機種 |
6D |
重量 |
5.9kg |
シリンダ内径 |
φ38mm |
ピストンストローク |
32mm |
全長 |
424mm |
打撃数 |
3400打撃/分 |
バルブ形式 |
フラッパーバルブ |
空気消費量 |
0.85㎥/min |
軽量化のため回転機構はピストンライフル方式となっています。
バルブは打撃ムラが発生しても粉じんに強いインガーソルランド形式のフラッパーバルブが使用されています。
バルブシート、バルブ、バルブチェスト
ピストン前進時
ピストン後退時
さく岩機とセリ矢を使用した石割りは、割れた石面にせん孔穴の凸凹が付いたうえ、大量の粉塵が発生して作業環境を悪化させましたが、チッパーを使用した石割りの5倍以上の能率で簡単に石を割ることができたため急速に普及しました。
現在では、矢と矢穴による石割りはほとんど行われない技能となっています。
6D 動作の様子
6Dは1990年代、特に韓国へ大量に輸出されました。
引用資料
1) 日本山海名産圖會 5巻,木村孔恭(兼葭堂)著蔀関月画,1799年(寛政11)
採石ハンドブック,採石ハンドブック編集委員会,技報堂,1976年