クラシックロックドリルの世界
第19回 ASC‐5/CH55/CH80 チッピングハンマー
旧足尾精錬所前にある古河橋は明治23年に完成した道路用鉄橋としては日本最古の物となります。
その大きさを当時の記録から引き写すと
「本橋は二十六個の『ポスト』二十八個の『ボツトムコード』十六個の『アツパーコード』二十八個の『プレーセス』十三個の『ビーム』等からできているので
総重量五十九頓餘り、長さ一百六十尺強、内幅十四尺三寸、舗板の全長百六十三尺。中央に於て一寸八分の隆起をなし、圓形になだれて雨水を流すに便りよくし、又東方に於て『ベッドプレート』の起坐に因り伸縮に故障なくしてある。」(鉱夫の友 第33号 原文ママ)
ドイツでリベット(鉸鋲)で接合された各鉄骨部品を足尾でボルトで組み立てる工法により、十月二十六日の組立開始から十一月十三日の竣工と短期間で工事を終了する事ができました。
各鉄骨部品の組み立てはリベット(鉸鋲)で接合されました。
リベット接合とは鉄板と接手に孔をあけ、ここに赤熱した鋲を挿入し、反対側を押板で押さえた後、大ハンマ―で鋲の頭を丸く叩いて鉸めて接合します(鋲打ち)。溶接の信頼性が高くなる1970年代まで鉄板の接合はリベット接合に多くを頼っていました。
ハンマーによるリベット打ちは重労働であった事から、打撃のみの小形(重量10Kg未満)空圧さく岩機(ニューマチックハンマー)が発明されると、リベット打ち作業は手打ちからニューマチックハンマーによる機械打ちに切り替わっていきました。
またリベットは過大な力で打つと却って緩みが発生する事もあるため、軽い力で数多く(1500回~2000回/分)打撃する、ニューマチックハンマー(リベッティングハンマー)の使用は作業効率と品質の向上に貢献しました。
当時、リベットを大量に使用したのは造船業界で、船の排水量1000トンに付き10万本のリベットを使用すると言われました。現存するリベット船として横浜山下公園にある「氷川丸」(1930年竣工)があります。
造船工場は大型コンプレッサーを設備し、鑿先の形状を変更することで、鋲打ち(リベッティングハンマー)、錆落とし(スケーリングハンマー)、水密のため鉄板の端を鉸める(コーキングハンマー)など多数のニューマチックハンマーを用途に合わせて使い分けました。
これらの作業は職人による繊細な力加減が必要でもあったため、ニューマチックハンマーは持ち手の親指で軽くON-OFFできるようになっていました。
当初は造船・鉄鋼業界向けであった小型ニューマチックハンマーですが、戦後小型コンプレッサーが普及すると石材加工業での小割り作業、土木でのコンクリートはつり作業(チッピング)にも使用されるようになりチッピングハンマーとも呼ばれました。
鉱山・土木業界を顧客とする古河はCA7より小型のニューマチックハンマーを製作していませんでしたが、顧客からの要望もあり、チッピングハンマー”ASC-5”を製作しました。
機種 |
ASC-5 |
重量 |
5.5Kg |
シリンダ内径 |
25.5㎜ |
ピストンストローク |
110㎜ |
バルブ形式 |
反動バルブ
REACTION VALVE |
バルブ形状 |
プレートバルブ |
打撃数 |
1700回/分 |
ASC-5は軽量化と低圧でも軽快に作動することを狙ってCA7、ASD11と同じフロットマン式反動バルブが採用されました。
ASD11のそろばん玉型バルブは更に薄くなり厚さ0.8㎜のプレートとなりました。このプレートバルブが0.7㎜の幅で動くことでピストンを切り替えます。
「動作する理屈は分かるが、理由が分からない」と設計者が謎の言葉を漏らすほど簡略化されたバルブは他のバルブ機構より汚れに強くチッピング作業に適していましたが、バルブが急激に切り替わるため圧力反動による振動が大きい点が短所でした。
後に振動工具による健康障害が問題になってくるとASC-5のバルブ機構は振動を減らすことが困難なため、圧力反動のより小さいフランジ型バルブを使用したチッパー、CH55,CH80へとモデルチェンジしました。
機種 |
CH55 |
CH80 |
重量 |
5.3Kg |
6.0Kg |
シリンダ内径 |
24㎜ |
28㎜ |
ピストンストローク |
75㎜ |
75㎜ |
バルブ形式 |
反動バルブ
REACTION VALVE |
反動バルブ
REACTION VALVE |
バルブ形状 |
フランジ形 |
フランジ形 |
打撃数 |
2000回/分 |
2000回/分 |
CH55の作動状態
次回はB44(ペービングブレーカ)の予定です。
引用
「板金作業」北原次郎市、青木一雄 共著 金園社 1961年