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クラシックロックドリルの世界
第6回 ASD12/ASD41小型/ASD43中型 足尾式ストーパー

1921~1937年開発

足場棚を組んでのSTOPINGでは、板の振動でさく岩機をしっかり保持できなかったり、作業中に板の隙間から転落する危険がありました。
そこで足尾銅山では、より安全性の高いシュリンケージ採掘法(SHRINKAGE STOPING)という上向き採掘法が採用されました。
シュリンケージ採掘法では、発破で破砕された鉱石の見かけの体積が増えることを利用して、発破された鉱石の約40%を取り出し、残りは切羽内に残して次の作業の足場としながら上方向に採掘をします。切羽内の鉱石は最終的には全部取り出されます。
作業が簡単で支柱をほとんど必要とせず、鉱石は重力を利用して下部坑道に排出するので運搬もほとんどないので能率が高く、採掘費が一般に安くなるのが特徴となります。
シュリンケージ採掘法は、三菱金属鉱業(現 三菱マテリアル)尾去沢銅山(秋田県鹿角市,1978年閉山)などでも採用されていました。
その他にも神岡鉱山(三井金属鉱業)、釜石鉱山ではサブレベル採掘法(SUBLEVEL STOPING)、久原鉱業日立鉱山(現 JX金属)では充填式水平段欠採掘法(CUT AND FILL STOPING)と鉱山に合わせてストーパー採掘が行われました。

シュリンケージ採掘法(SHRINKAGE STOPING)
シュリンケージ採掘法(SHRINKAGE STOPING)
シュリンケージ採掘法
シュリンケージ採掘法1)

シュリンケージ採掘法では、足場が悪いことから軽量なストーパーが求められたので、足尾銅山では1921年(大正10年)ASD11の後端にエアー伸縮シリンダを取り付けた小型空圧ストーパーASD12を開発しました。
ASD12
ASD122)
ASD12カタログ
ASD12カタログ2)
ASD12部品図
ASD12部品図2)

ASD12は、BC21などの大型ストーパーには無かったロッド回転機構が付いていました。これは小型なASD12のロッド回転トルクが小さいため、ストープ作業中のさく岩機の制御が大型機よりも容易だったからです。
またタペットレス構造でしたので、ASD11同様にせん孔中にエアブローが行えました。
作業者は、ASD40などの大型さく岩機のように、せん孔中にさく岩機本体を回転させる必要が無く疲労が軽減されました。

ASD12
シリンダ内径 41㎜
ピストンストローク 38㎜
バルブ形式 半自動バルブ
Semi-Automatic Valve
バルブ形状 そろばん玉形
打撃数 2400回/分
全長 約668㎜(フィードシリンダー縮み時)
約868㎜(フィードシリンダー伸び時)
フィードシリンダ内径 φ30㎜

さらにASD18が開発されると、ASD18のバルブ一式を利用した小型ストーパーASD41が開発されました。
ASD12と同様にタペットレス構造とし、ASD40と違ってASD18と同様にウォーターブローが行えたので粉塵防止に効果を上げました。
ASD41型(後期型)カタログ
ASD41型(後期型)カタログ
ASD41図面
ASD41図面

ASD41:フィードシリンダ縮み状態
ASD41:フィードシリンダ縮み状態
ASD41:フィードシリンダ伸び状態
ASD41:フィードシリンダ伸び状態

ASD41は段階的に改良が行われ、初期型、中期型、後期型の3形式に分けられます。
①初期型:ロッド(タガネ)の自動回転機構有り。回転クラッチ及び推力調整機構無し。
小型のASD41でもせん孔中の岩質変化によって、作業者が保持しているサポーティングハンドルが振り回される危険がありました(ASD40の記事参照)。

ASD41:初期型 サポーティングハンドルは潤滑油タンクとしても利用
サポーティングハンドルは潤滑油タンクとしても利用(初期型)



②中期型:ロッド(タガネ)の自動回転機構および回転クラッチあり。推力調整機構無し。
岩質によりサポーティングハンドルが振り回されそうになった時は、クラッチで自動回転をオフにする安全装置が組み込まれました。
ASD41:中期型 サポーティングハンドルに付いたクラッチボタン(中期型)
サポーティングハンドルに付いたクラッチボタン(中期型)
ASD41:中期型 クラッチ機構(中期型)
クラッチ機構(中期型)
特許第93518号 回転制御装置、出願者 吉田吉雄氏
特許第 93518号 回転制御装置、出願者 吉田吉雄 技師
     


サポーティングハンドルに付いているクラッチボタンを指で押すとクラッチが切れてロッドは回転しません。クラッチボタンから指を離すとクラッチが入りロッドが回転します。

せん孔作業では、せん孔状況にあわせてクラッチをオン/オフして、ロッドの回転を制御しながら作業を行いました。

ASD41(中期型)動作状態


③後期型:ロッド(タガネ)の自動回転機構有り。回転クラッチ無し。推力調整機構あり。
戦後、せん孔中にフィード推力を自由に変更できる推力調整式レッグがアメリカから紹介されます。
ASD41にも、フィードシリンダ推力をゼロから最大まで自由に調整できる圧力調整フィードバルブが付き、安全にストーピング作業ができるようになりました。



ASD41
重量 17kg
シリンダ内径 48㎜
ピストンストローク 45㎜
バルブ形式 半自動バルブ
Semi-Automatic Valve
バルブ形状 チューブ型
打撃数 2700回/分
掘進速度 180ミリ/分 (穴径32ミリ)
花崗岩(超硬ビット使用)
全長 約1030㎜(フィードシリンダー縮み時)
約1545㎜(フィードシリンダー伸び時)
フィードシリンダ内径 φ40㎜
推力 約60kgf(空気圧力5kgf/㎠)
空気消費量 1.15㎥/min

小型軽量且つ自動回転機構の付いたASD41は、足場の悪い狭い切羽でも安定して使用でき、作業者の安全確保に貢献しました。

さらに中型さく岩機ASD25が開発されると、ASD25のバルブセットを利用した自動回転機構付き中型ストーパーASD43が開発されました。
ASD43開発時は、まだフィードシリンダの推力調節機構は付いておらず、安全な作業のためにはスロットルバルブを微調整しながらせん孔しなくてはなりませんでしたが、回転機構無しストーパーより、はるかに作業が楽になりました。
また破砕力が強力になったため、大量に発生する破砕屑が上部から本体内に侵入しないようにタペット形式となっていますが、フロントとタペットの形状を工夫することで、ウォーターブローが行えるようになっています。

ASD43 カタログ表面
ASD43 カタログ表面
ASD43 カタログ裏面
ASD43 カタログ裏面

ASD43
重量 30kg
シリンダ内径 60㎜
ピストンストローク 54㎜
バルブ形式 半自動バルブ
Semi-Automatic Valve
バルブ形状 チューブ型
打撃数 2100回/分
掘進速度 190ミリ/分 (穴径45ミリ)
花崗岩(超硬ビット使用)
全長 約1330㎜(フィードシリンダー縮み時)
約1935㎜(フィードシリンダー伸び時)
フィードシリンダ内径 φ50㎜
推力 約100kgf(空気圧力5kgf/㎠)
空気消費量 2.2㎥/min


参考資料:
1) 最新鉱山保安技術テキスト第2巻(上),伊木正二,白亜書房,1962年
2) JX金属グループ 日鉱記念館 所蔵
古河鉱業「創業100年史」,(昭和51年)

次回はCA7(1925年)の予定です。