我が国の石灰鉱山は露天掘りでの採鉱が主になりますが、急傾斜の山が多い事から戦前は透かし掘法(下抜き掘、絶壁掘り)と呼ばれる採掘崖の下部にせん孔して発破を行い、発破の振動などを利用して発破の威力圏外のものまで一気に崩落させる採掘法が行われていました。
透し掘り法では計画通りに岩盤が崩落すれば少ない火薬量で大量の鉱石を得る事ができるため、明治から昭和初期に広く行われましたが、崩落、落石による災害を避けられませんでした。
さすがに透し堀法は危険すぎると戦後は規制され、安全性を高めた傾斜面採掘法という採掘法に代わりました。
傾斜面採掘法では斜面を下から登りながら崩していきますが、鉱石を下まで落とすため斜面に一定以上の角度が必要であり、作業者は滑落防止のため、命綱で体を吊ってレッグドリルでせん孔を行いました。
さく岩機でのせん孔深さは3mから5mと深いため322Dよりも強力なレッグドリルが求められました。
左:透し掘法 右:傾斜面採掘法
身体を命綱で吊るして急斜面でレッグドリルを操作する作業者
さく岩機の打撃力は①空気圧力に強さ ②ピストンの直径(空気圧力を受ける面積) ③ピストンストローク ④打撃数の4点で決まります。これら4点の数値を大きくすると打撃力は大きくなりますが、せん孔中の反動も大きくなり悪影響を与えます。
表1 さく岩機の打撃力を向上させる手段と長所・短所
| No. |
手段 |
方法 |
長所 |
短所 |
| ① |
空気圧を高くする |
高圧コンプレッサの使用 |
動作が確実になる 打撃数が増える |
部品耐久性が低下する
さく岩機の大型化
反動が大きくなる
|
| ② |
ピストンの大径化 |
シリンダ内径の径大化 |
振動が抑制される |
さく岩機の大型化
反動が大きくなる 打撃数が低下する |
| ③ |
ピストンストロークの延長 |
シリンダ長さの延長 |
振動が抑制される |
さく岩機の大型化
反動が大きくなる
打撃数が低下する |
| ④ |
打撃数を増やす |
ピストンストロークを短くする
空気圧を高くする |
反動バルブ形式の方が 打撃数を増やすことが容易 |
微振動が増加する |
空圧さく岩機設計では上記のバランスを取る事が重要になります。
外国製さく岩機も古河製さく岩機も打撃力向上の方法としてピストン内径を拡大した上で打撃数を増加させるという手段を選びましたが、打撃数向上の手段として外国製さく岩機は空気圧を高めるという方法を、古河はピストンストロークを短くするという方法をとりましたので、外国製さく岩機は大型化することになりました。
また打撃数が増えた新型さく岩機は人体に有害な微振動が発生するようになったため、古河をはじめ各社共に防振ハンドルを標準装備したことから重量は更に増加しました。
そのため外国製さく岩機は日本人には一人で扱えない大きさとなってしまいました。
表2 外国製と古河製のレッグドリルの仕様比較
| メーカ |
機種名 |
シリンダ内径x ピストンストローク |
本体重量 |
打撃数 |
空気圧 (カタログ値) |
| A社 |
JR300 |
φ76mmx67.5mm |
34.2kg |
2350回/分 |
6.0kg/㎠ |
| B社 |
S93F |
φ90mmx45mm |
28.2kg |
3000回/分 |
6.0kg/㎠ |
| C社 |
BBD90 |
φ90mmx45mm |
28.2kg |
2850回/分 |
6.0kg/㎠ |
| D社 |
SL90 |
φ82mmx51mm |
30.3kg |
2900回/分 |
6.0kg/㎠ |
|
| 古河 |
F7 |
φ75mmx49mm |
22.9kg |
2450回/分 |
5.0kg/㎠ |
古河 |
F8 |
φ75mmx70mm |
26.0kg |
1950回/分 |
5.0kg/㎠ |
| 古河 |
F10 |
φ85mmx49mm |
27.1kg |
2600回/分 |
5.0kg/㎠ |
| 古河 |
322D (参考) |
φ70mmx70mm |
25.0kg |
1850回/分 |
5.0kg/㎠ |
Fシリーズには、LB56レッグを強化したフィードシリンダ内径φ64mmのレッグが使用できました。さらに長尺ロッド対応の2段シリンダ構造にしたダブルフィードレッグ(LD64)もラインナップされました。
表3 レッグの仕様比較
| レッグ形式 |
LB64 |
LC64 |
LD64 |
| 重量 |
14.2Kg |
15.3Kg |
20.4kg |
| 全長(最短) |
1385㎜ |
1670㎜ |
1416㎜ |
| 全長(最長) |
2385㎜ |
2970㎜ |
3151㎜ |
| フィードシリンダ内径 |
64mm |
64mm |
1段目64㎜ 2段目50㎜ |
F7のせん孔状態
傾斜面掘削法でも落石・崩落・転落による災害が多発したため採掘法は昭和45年(1970年)頃から大型のダンプトラック、シャベルを使用するより安全な階段掘り(ベンチカット)法に代わっていきました。現在は透し掘り法も傾斜面掘削法も禁止されています。
参考文献:「鉱山読本 第2巻」 1968年刊 山崎憲之資著 技術書院発行
次回はD77レッグドリル、D88レッグドリルの予定です。
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