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クラシックロックドリルの世界
番外編⑧ 爆薬と安全

1.ダイナマイト爆薬とカーリット爆薬
カーリット爆薬展示用模造品(昭和30年頃 足尾銅山)
カーリット爆薬展示用模造品(昭和30年頃 足尾銅山)
桐ダイナマイト箱と石刀(足尾銅山)
桐ダイナマイト箱と石刀(足尾銅山)

鉱山、隧道などではさく岩機で岩盤をせん孔した後、爆薬が装填され発破が行われます。足尾銅山ではダイナマイト爆薬、カーリット爆薬が使用されました。

(1)ダイナマイト
ニトログリセリンを基剤とする爆薬をダイナマイト類と呼びますが、ニトログリセリンの量と添加物によって次のような種類があります。
松ダイナマイト:ニトログリセリン90~93%に綿薬7~8%を溶かした物。最大の爆発力を持ちます。
櫻ダイナマイト:松ダイナマイトの猛力緩和のため硝石を混ぜてニトログリセリンを30~75%に薄めたもの
桐ダイナマイト:櫻ダイナマイトの硝石を硝安に置き換えたもの。発生ガス量が多い
梅ダイナマイト:櫻ダイナマイトの硝石をホウ砂等の減熱剤で置き換えたもの
白梅ダイナマイト:桐ダイナマイトに減熱剤として食塩を加えたもの
硝安ダイナマイト:ニトログリセリン7~22%に硝酸アンモニア、木粉、食塩を混ぜたもので粉末状のもの
など
足尾銅山では櫻、桐ダイナマイトが使用されていました。

(2)カーリット
火薬原料
爆薬原料
過塩素アンモンなどの過塩素酸塩を基剤としてこれにケイ素鉄、木粉、重油等を混ぜた爆薬をカーリットと呼びます。
黒、黒L、藍、薫、樺などの種類があります。

2.導火線と導爆線
導火線(模造品)
導火線(模造品)
導爆線(模造品)導火線と間違えないように着色されています。
導爆線(模造品)導火線と間違えないように着色されています。

(1)導火線
爆薬は火薬と違い、火を付けても燃焼するだけで爆発することはありません。爆発させるためには雷管を爆発させてその衝撃力で起爆させる必要があります。
導火線は火薬を芯薬としたロープ状の線で雷管(信管)を起爆させるために使用します。
先ず導火線を雷管に差し込み固定した後、雷管を爆薬に挿入します。導火線は1秒間に1cmの割合で燃え進みますので退避に必要な時間の長さに導火線を切断し(1分=60㎝の割合で計算)、端に火を付けます。
一定時間後に導火線で点火された雷管は爆轟を起こし爆薬を起爆します。

導火線による爆薬の起爆
導火線による爆薬の起爆
導火切り:導火線切断用工具(古河足尾歴史館)ハンドル部内側の丸い切り欠きは導火線と雷管を圧着させるために使用します。
導火切り:導火線切断用工具(古河足尾歴史館)
ハンドル部内側の丸い切り欠きは導火線と雷管を圧着させるために使用します。

(2)導爆線
導爆薬は導火線と違い爆薬を芯薬としたロープ状の線で、雷管で起爆した爆轟を約7000m/秒の速度で伝達して一度に複数の爆薬を起爆させます。

複数の爆薬の同時起爆法-1
複数の爆薬の同時起爆法-1
複数の爆薬の同時起爆法-2
複数の爆薬の同時起爆法-2

3.爆薬類の扱い
爆薬類は扱いを間違えると大事故につながる事から慎重な扱いが求められます。
"大正3年足尾事業所長の小田川全之は、アメリカの製鉄会社で提唱されていた「SAFETY FIRST(セーフティファースト)」を「安全専一(あんぜんせんいち)」と翻訳し、足尾銅山に安全専一の表示板を掲示して安全活動を推進しました。"
これが日本の産業界における安全運動の始まりと言われています。
さらに運動徹底のため、小田川は大正4年(1915年)に「安全専一」という小冊子を作成し、鉱山全従業員に配布しました。
この冊子の中では火薬類取扱いの心得がトップに配置されています。

安全専一(復刻版)
安全専一(復刻版)
目次
目次
火薬類取り扱いの心得
火薬類取り扱いの心得

4.炭鉱と炭鉱用爆薬
2024年10月20日(日)より放送開始のTBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」は、長崎県端島(軍艦島)炭鉱を舞台にした物語ですが、弊社では撮影用にコールピック(CA7)、手持ち空圧さく岩機を貸出しています。
炭鉱でさく岩機が使用され、発破が行われていたというと電気、カンテラが使えない炭鉱で爆薬を使用したらガスに引火して危険ではなかったのかと多くの人が驚きます。
実際に炭鉱ではメタンガス爆発により多数の犠牲者を出していますが、原因の殆どは電気スパークや裸火の引火です。
そのため坑内で使用する電気器具や照明器具は「鉱業警察規則・石炭坑爆発取締規則」(昭和4年)や「石炭鉱山保安規則」(昭和24年)で厳しく規制され、合格品しか坑内に持ち込むことができませんでした、
特にたばこ、喫煙具の持ち込みは厳禁とされ、入坑口で毎回厳重にチェックされました。

国内炭鉱ガス爆発災害件数
件数(件) 死者(人) 重傷者(人) 軽傷者(人)
昭和24年 8 24 7 25
昭和25年 18 45 32 21
昭和26年 25 40 51 16
昭和27年 37 9 64 41
昭和28年 31 30 44 22
昭和29年 26 90 46 20

石炭坑爆発取締規則 昭和4年12月
石炭坑爆発取締規則 昭和4年12月
電気発破用コード(古河足尾歴史観)
電気発破用コード(古河足尾歴史観)

安全に発破を行うため、切羽では事前にガス抜き孔をせん孔の上でガス濃度を測定してメタンガス濃度が一定以上の場合は安全な濃度に下がるまで作業を中止し、発破にはガス爆発を防ぐため炭鉱用爆薬を使用しました。
メタンガスの混合気に火が付くためには650℃以上の熱源が必要ですが、熱源に接触しても直ちに点火するものではなく点火するまでにある程度の加熱時間が必要なことから炭鉱用爆薬には次のような特徴がありました。
①爆炎時間が短い:0.0002sec~0.0003sec(非炭鉱用:0.0006~0.0008sec)
②爆温が低い:1500℃~2000℃ 瞬間的に2200℃以上になると混合気に引火する可能性がある。(非炭鉱用:3000℃以上)
③爆炎の長さが短い:30㎝~40㎝(非炭鉱用:60~80㎝)
④爆時間が短い

梅・白梅・硝安ダイナマイトが炭鉱用となります。

イギリス、アメリカでは一定の条件下でもガスに点火しない爆薬を認可爆薬(Permissible Explosives)と呼んでいましたが、戦前のわが国には認可爆薬となる制度は無く、福岡県直方市御館山にある石炭坑予防調査所(大正6年2月)にて時々ガス炭塵引火試験を行って報告を行うだけでした。
その後、石炭坑予防調査所は直方市頓野に移転し(昭和3年5月)、昭和13年8月には石炭抗爆発予防試験所となり、主に炭鉱用爆薬類および機械器具の試験および検定を行いました。
戦後、直方市爆発試験坑道で一定の方法で検定比較し、検定に合格(ガス引火試験で10回不引火のものを合格品とする)した爆薬(検定爆薬)を炭鉱用爆薬として使用しました。


直方市石炭記念館パンフレット

爆発試験坑道(直方市石炭記念館)
爆発試験坑道(直方市石炭記念館)

爆発試験場 沿革
年月 試験場 所管
大正4年5月 安全灯試験場(直方市御館山) 福岡鉱務署
筑豊石炭鉱業組合
大正5年5月 所管換 農商務省
大正6年2月 石炭抗爆発予防試験場 福岡鉱山監督署
大正7年8月 所管換 福岡鉱務署
大正13年2月 石炭抗爆発予防調査所 福岡鉱山監督署
昭和3年5月 筑豊鉱山学校隣接地へ移転 福岡鉱山監督署
昭和13年8月 直方石炭抗爆発予防試験場 商工省
昭和23年7月 九州炭鉱保安技術研究所 工業技術庁
昭和24年4月 鉱業技術試験場九州支所 工業技術庁
昭和27年4月 資源技術試験場九州支所 工業技術院
昭和28年9月 試験炭鉱開設(碓井分室) 工業技術院
昭和32年4月 試験炭鉱完成 工業技術院
昭和45年7月 公害資源研究所九州支所 工業技術院

※救護練習所模擬坑道:石炭鉱山保安規則では採掘現場での可燃性ガス濃度が0.5%以上ある鉱山では一班人員5人以上で三班以上の鉱山救護隊を設け、救護隊員は三か月に1回以上練習をさせなくてはならないことになっていました。
筑豊石炭鉱業組合では鉄筋コンクリート製の模擬坑道を制作し救護訓練を行いました。
現在、直方市石炭記念館 本館(旧筑豊石炭鉱業組合直方会議所)及び救護練習所模擬坑道(直方市)は国指定史跡となっています。

現在、土木工事で使用される爆薬は安全度の高い含水爆薬となり、日本国内でのダイナマイト、カーリットの生産は終了しています。

引用資料
炭礦爆発予防論 訂再版 厚見利作 著 昭和18年
実用採炭学 改訂 厚見利作 著 昭和19年
石炭と炭鉱業の知識 厚見利作 著 昭和12年
図解による新日本地理 炭鉱のすがた 成田忠久 著 昭和31年
直方市石炭記念館 https://yumenity.com/nogata-seiktan-kinenkan/

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