クラシックロックドリルの世界
番外編② 空圧さく岩機の性能試験
さく岩機は圧縮された空気の力でシリンダ内のピストンを高速で前後に動かして1分間に約2000回前後の打撃を行うと同時にロッド(タガネ)を約200回転させます。
コンピューターが無い当時のさく岩機開発では計算の簡略化のため、
①圧縮空気の膨張は考慮しない
②ピストンスピードに関わらずピストンに働く圧力は一定とする
③一行程中のピストン加速度は一様である
④バルブ・ピストンの移動抵抗力は考慮しない。
など条件を簡素化して設計が行われました。
そのため出来上がった新型さく岩機が最初はカタリと動かない事も稀ではありませんでしたが、そこから各部品の形状や空気通路の位置や大きさなどを少しずつ変えてチューンナップを行い製品を完成させました。
同時に試作機は徹底的な耐久試験が行なわれ、過酷な現場で問題無く作動する事を十分に検証した上で販売されました。
初期には実際の鉱山でのせん孔試験が中心となりましたが、足尾ではさく岩機工場が銅山の直ぐ側に有ったため坑内外で24時間現場テストを繰り返す事ができました。
古河がASD11、ASD18、ASD25などの独自設計さく岩機を他社に先駆けて開発できたのは徹底的にさく岩機をテストできた足尾の環境のお陰と言えます。
さらに古河は自社開発を含め各種測定装置を積極的に導入してさく岩機の改良に努めました。
昭和20年代(1950年前後)に古河で使用していたさく岩機性能測定装置の一部をご紹介します。
「ペインター式鑿岩機試驗機」
「此試驗機は1913年米國加州North Star Mineの機械技師W.D.Paynter氏の發明にかゝるものにして鑿岩機の如き往復運動をなす機械の打撃力及び打撃數を明確に圖示し得べく工業上甚だ重寳なる裝置なり。
試驗せんとする鑿岩機は特有のフツク又は三脚臺によりて支へ、そのピストンの打撃はビツトを經て試驗機のオイル・シリンダーのピストン・ロツドに傳ふ、然れば打撃は油を經てメタリツク・ダイアフラムを震動す、
この震動をレバーによりてマグニフアイしてドラムの上の白紙に記録せんとする裝置なり。
此試驗機を使用せんとするには豫め既知の仕事量を與へてその爲に生する白紙上の記録及び共に相當する油の壓力を檢定し置き、鑿岩機による記録をこれに比較して仕事量を算出せざるべからす。」
引用:「鑿岩機の試驗」(東大工學部採鑛學研究室報告第一) 工學士 佐野秀之助/工學士 青山秀三郎
日本鑛業會誌 Vol.41大正十四年十一月No.487 https://doi.org/10.11508/shigentosozai1885.41.487_935
さく岩機の動作解析のためにはさく岩機本体内のバルブとピストンの動きと空気圧力の変化を同時に計測する必要があります。
古河は機械式インジケーター、電気式インジケーター両方を活用することによりバルブ・ピストンの動きとさく岩機内部の空気圧力変化をリアルタイムに測定することに成功しました。
これらの測定装置で集めたデータは現場試験のデータと突き合わせて解析され、新型さく岩機の開発期間短縮と性能向上に貢献しました。
次回はAD3(1945年)を予定しています。