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クラシックロックドリルの世界
番外編④ 空圧さく岩機のロッド・ビット-⑴

人類が硬い岩に青銅を用いて手掘りしていた時代から、鉄あるいは鋼の棒を回転させながら叩いて、丸い孔を穿つという考えになり、今日のさく岩機の基となりました。
岩盤を打撃するタガネをビットあるいはロッドと言います。
ビットという名称は1749年にハンガリーの一鉱夫が初めて使用したと伝えられています。1840年にはダービーシャ鉱山で鋳鋼製のビットが用いられました。
一人掘りで掘れる深さは約30cm前後、それ以上の深さは二人から三人掘りで行いました。

3人で壁面掘り
大勢で盤面掘り


ロッドは炭素鋼(スチール)製で刃先を成形した後に焼入れを実施して硬度を高めてから使用しました。
また初期のさく岩機の回転伝達部は四角形でしたのでロッドのさく岩機挿入部は丸棒を四角形に鍛造して製作されました。

四角形のASD11のロッド挿入口
ASD11のロッド挿入口。四角形です。
FL3 エアーレッグ
      四角形シャンクの端面形状

1900年に設立された銅山工作課では日々消耗されるロッドを供給しました。

明治時代の工作課 鍛工場内でロッドが鍛造されています
工作課鍛工場内の図(ロッドが鍛造されています):明治時代
「工作課は下間藤に在り。卽ち本山と掛水の間の地にして、松木川に面し、一區畫をなせり。(略)
插畫に示せるは、機械掛冶工塲の内部にして、數夛の冶工夫が、身を猛焔の中に投じ、機關を運轉して、製作に從亊するの圖なり。
殊に竒觀なるは、蒸氣槌なるべし。一人の冶工夫は挟を握り、爐中に燒燃せる鐵片を探り、之を機關の盤上に置き、以て其の一端を把持せり。
機關は忽ち白煙を吐噴し、猛然として槌を上下すること爾三囘、粉火飛散、雨の如く、霞の如く、奔龍怒號して馳虎聲を潛む、盤上の鐵塊、只、餅の如く、綿の如く、その一撃に遇う毎に、著しく縮小し、更に數打撃加へたらむには、紙の如く、糸の如くなりけむものを、槌は上邊に其の位置を保ちて、其の運動を中止せり。」
引用:風俗画報増刊第234号「足尾銅山図絵」 明治35年刊

足尾銅山で使用されるさく岩機用ロッドは最初期から輸入鋼材(洋鋼)が使用されていました。

当時の輸入鋼商社である河合鋼商店の写真とブランド名「東郷ハガネ」の価格表、製品ラベルです。ラベルに兜印鉱山用鋼があります
当時の輸入鋼商社:河合鋼商店の写真とブランド名「東郷ハガネ」の価格表、製品ラベル。ラベルに兜印鉱山用鋼があります。
引用「東郷ハガネ」http://ohmura-study.net/006.html

1897年に米国のライナーにより中空ロッドを用いてさく孔中の繰粉を空気又は水でブローするさく岩機が発明されると、ビットはブロー用孔の空いた中空製六角鋼の長いロッド(コンベンショナル・スチール・ビット)となりました。
また、岩質にあわせたロッド先端形状が各種考案されるようになると、ロッドの刃先は金型を利用した専用の鍛造機(ドリルシャープナー)により成形されるようになりました。

初期さく岩機用ロッドの先端形状
初期さく岩機用ロッドの先端形状
引用「ROCK DRILL」EUSTACE M. WESTON(1910)P167
レッグドリルとして使用のasd22
工作課鍛造工場でのドリルシャープナーによるロッド刃先鍛造作業(大正時代)
(上の挿絵に描かれている格子窓や吊り下げ集塵フードなどが写っています)
写真提供:古河足尾歴史館
シャープナー
シャープナー
オイルファーネス
オイルファーネス

ロッドの刃先を鍛造で成形するシャープナーと成形、焼入れのためのオイルファーネス(Oil-furnace:石油式加熱炉)も古河で製造されました。

ドリルシャープナーで成形された一番ロッド
ドリルシャープナーで成形された一番ロッド
クロス型の側面
クロス型ブロー穴
クロス型ロッド
先端はX字形(クロス)に鍛造成形されています。ブロー用の穴は成型時に変形しています。
刃先直径:約50㎜

シャープナー
オイルファーネス

ロッド飛び出し防止用のカラーもドリルシャープナーで鍛造成形されました。

成形は先ず加工部をオイルファーネスで約1000度まで加熱してからシャープナにより数回に分けて鍛造成形後徐冷。その後刃先だけ約850度で焼入れされました。
成形時の温度管理や鍛造成形回数を誤るとロッド内部に亀裂等が生じて不良になるなど熟練が必要な作業でした。

ロッド刃先は焼入れで硬度が高められていましたが、それでも岩石を相手にするには十分な硬さではありませんでした。

岩石の硬度(ショア硬度)
区分 岩石名 ショア硬度
極硬岩 硅石・石英・硬質花崗岩等 100以上
硬岩 花崗岩・閃緑岩・角閃岩・玄武岩等 75~100
中硬岩 砂岩・鉄鉱石・安山岩・蛇紋岩・凝灰岩等 40~60
軟岩 石灰岩・方解岩・緑泥石等 25~40
極軟岩 石炭・石こう等
25以下

足尾銅山の岩質:流紋岩、ショア硬度70~80
ロッド(焼入れ鋼)のショア硬度: 75前後
岩の硬度によりせん孔状態は変化します、例えるならば硬岩以上は打ち砕く、軟岩以下は切り刻むというようなイメージになります。

さく岩機の役目は発破用のダイナマイト装填孔のせん孔になりますが、当時のダイナマイトは直径20mm、25mm、30mm、40㎜等が使用されていました。
ダイナマイトの直径に対して孔径が大きすぎると発破の威力が低下するため、せん孔に使用するロッド刃先の直径はダイナマイト径より少し大きい位が適当となります。(φ25㎜ダイナマイトならば孔径φ28㎜位)
しかし摩耗が大きい鋼製ロッドで例えばφ25㎜ダイナマイト用に刃先径φ32㎜ロッドで深さ1mまで一気にせん孔すると入口はφ32mmでも孔底はφ25mm以下のテーパー孔になりダイナマイトが孔底まで押し込めなくる事が起こりました。
対策として長さ30cm(1番ロッド)、60cm(2番ロッド)、90cm(3番ロッド)、120cm(4番ロッド)と長さを変えたロッドを順次使用して刃先摩耗により孔径が小さくなるのを防ぎました。
さく岩機の性能向上により鋼製ロッドの摩耗も大きくなり1日に使用する交換用ロッド数が増えたため、足尾銅山では鏨(タガネ)運搬夫という専門の人間もあらわれました。
また、刃先部を交換式にし、ロッドとねじで接続するデタッチャブルビットも使用されましたが、接続部で打撃エネルギーの約20%が失はれることと、当時の炭素鋼製ロッドではネジ部の折損が多いという欠点から石灰岩などの軟岩以外では主流となりませんでした。

スチールロッドのこれら問題は、戦後にタングステン合金(超硬)の刃先と材質を合金製にした超硬インサートロッド、超硬ビットにより解決しました。超硬インサートロッド、超硬ビットについては別稿で改めて紹介いたします。