クラシックロックドリルの世界
第4回 ASD25 ハンドハンマ
1937年開発 重量:19Kg
ASD20(BCR430:ジャックハンマー)の成功により海外から新型の中型手持ちさく岩機が各種輸入されましたが、その中で人気があったのがインガーソルランド社のR39でした。
R39はBCR430より格段に近代的な構造を持ち、パワーアップした中型さく岩機でした。
R39もBCR430同様に国内各社で同形式のさく岩機が製造されました。足尾でもR39を参考にしたさく岩機をそのまま商品名“R39”として製造販売しました。
R39は優れたさく岩機でしたが、シリンダ内の圧縮空気の圧力降下を利用するフラッパー型反動バルブ構造を採用していたため、空気消費量が多く反動が大きい点が欠点でした。
そこで、小型さく岩機ASD18を開発した吉田技師は重量をできるだけ軽くして反動も小さく、せん孔速度も従来以上の新型さく岩機ASD25を1937年(昭和12年)に開発しました。
ASD25はASD18の半自動バルブを更に洗練させて使用時の反動を抑えました。また海外さく岩機の最新の傾向(潤滑油タンク内蔵、ブローバルブによる独立したフラッシング機構)が取り入れられています。
ASD25はR39を超える高性能を発揮し、低反動かつ軽量なことから、非常な勢いでR39に取って代わりました。戦中戦後の食糧難の時代には日本人に一番適したさく岩機と評価されてベストセラーとなり、1958年(昭和33年)まで約20年間生産されました。
ASD25もASD18と同様に陸軍制式兵器「九九式動力鑿岩機」として戦時中は全量陸軍に納入されました。
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ASD25 |
※参考
インガーソルランド R39 |
重量 |
19Kg |
19.5Kg |
シリンダ内径 |
60㎜ |
66.7㎜(2⅝インチ) |
ピストンストローク |
54㎜ |
50.8㎜(2インチ) |
バルブ形式 |
半自動バルブ
SEMI-AUTOMATIC VALVE |
反動バルブ
REACTION VALVE |
バルブ形状 |
チューブ型 |
フラッパー型 |
打撃数 |
1900回/分 |
- |
掘進速度 |
300ミリ/分 (穴径32ミリ)
200ミリ/分 (穴径42ミリ)
※花崗岩(超硬ビット使用) |
- |
中型手持ちさく岩機が実用化されるまで、孔径42㎜のせん孔は大型さく岩機(ドリフタ)が運用されていましたが、使用には専用の架台・支柱・レール等が必要(一式平均150kg)なため、運搬だけでも人数を必要とする上に、一孔毎に位置決め段取りが必要など手間が掛かる物でした。
足尾銅山ではLI26は大正4年(1915年)に初めて導入された後、工作課で同型機が製造されて昭和初期(1930年位)まで使用されました。(
『第2回 ASD20』 内の集合写真参照) ASD20(BCR430)と同様のバタフライバルブが採用されています。
コラム(支柱)は直径約90㎜(3½inc)の鋼管製で、スクリュージャッキで天井面と床面の間に突っ張って固定するため、さく岩機の振動がコラムを通して天井の浮石に伝わり落石が起こることがあり、ドリフタ作業ではコラムを天井面から取り外す作業が一番危険とも言われました。
※参考 |
LI26 |
重量 |
約50Kg |
シリンダ内径 |
57.2㎜(2¼インチ) |
ピストンストローク |
63.5㎜(2½インチ) |
軽量なASD25は運搬も簡単で、横向きせん孔では写真のように手で支えて使用できるため、準備が必要なドリフタより作業効率が上がり、一般的なせん孔作業はドリフタから手持ちさく岩機の仕事に変わりました。
その傾向は、戦後、一人で使用できる横向きせん孔専用手持ちさく岩機(レッグドリル)が普及すると益々強くなり、ドリフタはトンネルジャンボやワゴンドリルなどの台車に搭載されて、大断面トンネル工事や大規模採石場などの大口径、長孔せん孔専用さく岩機として発展しました。
ASD25 動作の様子
次回は番外編①として石刀を紹介の予定です。