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クラシックロックドリルの世界
第7回 CA7(コールピック)

重量7.3kg 1925年

CA7
CA7


明治以降、暖房、蒸気機関車、製鉄、石炭化学工業など石炭の需要が高まり、最盛期には国内では700を超える炭鉱が操業していました(大正8年:789鉱山)。
可燃性ガスが発生する恐れが無い場合はさく岩機による発破採炭も行われましたが、通常、鶴嘴(つるはし、英語でピック:Pick)を使用して採炭されました。鶴嘴による採炭は、重労働な上に炭理(炭目)に合せて鶴嘴を打ち込まなくてはならず熟練が必要な作業でした。
20世紀初頭に、ヨーロッパで手持ち打撃さく岩機(リベッター/チッパー)が石炭採掘に使用されるようになり「コールピック」と呼ばれました。しかし親指で操作されるチッパーを採炭で使用すると、空打ちの多発と、操作部への石炭粉塵の侵入などにより早期に破損が頻発しました。
第19回 ASC-5/CH55/CH80 チッピングハンマーをご参照ください)

そこで、操作部を改善した独フロットマン(Flottman)、墺ボーラー(Böhler)、仏ムードン(Meudon)など、様々な形式のコールピックが開発されました。特に、岩盤に押し付けるだけで作動するオートスタートバルブを採用したフロットマン式コールピックCA7が、使いやすさから主流となり、第一次世界大戦で人手不足となったヨーロッパの炭鉱でコールピックが大量に導入されます(他に5kg級がCA5、6kg級がCA6、9kg級がCA10)。

日本でも、1915年頃からピック採炭が北海道夕張炭鉱、九州大之浦炭鉱などで始められ、全国に広まっていきました。
ピック採炭の能力は鶴嘴採炭の平均2.5倍あり、一人で8時間当たり12トン程度採炭できるうえ、疲労は鶴嘴採炭の3分の1程度になりました。
CA7の使用は、発破の危険を除くだけでなく、炭塵の発生を抑えてガス炭塵爆発の予防ともなりました。
また、長時間使用での振動による作業者の疲労を軽減するため、防振ハンドル付CA7-Vも設定されました。

CA7 発売当時のカタログ
CA7 発売当時のカタログ
防振ハンドル付
防振ハンドル付CA7-V

採炭現場の過酷な作業環境で、CA7は1年半から2年程度で寿命となり廃棄されたため大量の需要が発生し、自社炭鉱を保有していた古河など国内さく岩機製造各社は競ってCA7形式のコールピックを製作しました。
CA7は採炭だけでなく、鶴嘴に代わって土木工事(コンクリート・アスファルト・岩盤の破砕)や林業(木材の皮むき)等でも広く使用され、現場の機械化・省力化に貢献しました。
日本工業規格JISで、主要寸法が規格化(JIS M3902 1952~1996)もされました。

現在、CA7の仕事の多くは電動ピックに取って代わられていますが、空気で作動するCA7は、軽量でモーター加熱による連続使用時間の制限や感電の心配がなく、打撃力が大きいことから、湿度が高い現場や水に浸かるような現場で今でも使用されています。
(首都高速道路/山手トンネル工事で最大の難所と言われた、地下鉄丸ノ内線と大江戸線の隙間20mをくぐる中野坂上交差点付近工事では、シールドマシンが使用できず、CA7などを使い手掘りで開削施工されました1)

機種 CA7
重量 7.3Kg
シリンダ内径 35㎜
ピストンストローク 125㎜
バルブ形式 反動バルブ
REACTION VALVE
バルブ形状 ボール型
打撃数 1300回/分
販売定価 102円:昭和10年(1935年頃)
(参考:当時の大卒初任給約70円)
10,800円:昭和33年(1958年)
(参考:当時の大卒初任給約13,000円)


CA7動作の様子
押し付けるだけで打撃が始まります。

CA7は土木工事でも活躍しました。黒部ダム殉職者慰霊碑の左から3番目の人物像はCA7を手にしています。
黒部ダム殉職者慰霊碑(全景)
黒部ダム殉職者慰霊碑(全景)

黒部ダム殉職者慰霊碑(CA7アップ)
黒部ダム殉職者慰霊碑(CA7アップ)
黒部ダム第四工区工事(施工:佐藤工業株式会社殿)では、古河製大型トンネルドリルジャンボ3台(黒部トンネル工事用9ブームジャンボ1台、:導水路トンネル工事用11ブームジャンボ2台)の他、古河の各種さく岩機150台以上が活躍しました。
2022年9月、長野県大町市のSDGs探求旅行プログラム(同市SDGs学習旅行誘致協議会)にて、黒部ダム建設で活躍したさく岩機(22D、322D)を寄贈および技術支援して、同協議会が運営するさく岩機体験学習に全面協力しました。
黒部ダムに展示されている当社さく岩機 322D
黒部ダムに展示されている当社さく岩機322D(左)と22D(右)
黒部ダムに展示されている当社さく岩機 22D
黒部ダムに展示されている当社さく岩機322D(上)と22D(下)

参考資料:
1)アンダーピニングを伴うトンネル施工、遠藤蔵人、水越英世、諫山吾郎、『土木学会年次学術講演会講演概要集』第59回、2004年9月、473–474頁
「採炭教本」 北海道大学工学部採鉱学研究室 著 (昭和26年)
古河鉱業「創業100年史」(昭和51年)

次回は番外編②「さく岩機の性能試験」を予定しています。